或る生徒
カンカンカンカン! 遠くから踏み切りの警報音が聞こえます。 いつ聞いても血が騒ぎ、わくわく高揚する音です。 どっちかな?上りかな下りかな? 陸橋下で今か今か、と待ち構えていました。 不意に人の気配を感じ、ハッと見回しましたら、 遅刻でもしたのか、こんな時間に制服姿の男の子です。 陸橋の向こうにある... 続きをみる
ある商店街の話
訪れた時間が遅かったので、商店街は閑散としていました。 (何処か食べるところはないか?) 煮豆、佃煮、漬物……そうきたか! 白いご飯がなくちゃな〜 こんぶ わかめ ひじき 戻すのに時間かかる 魚だけ旨い? なんか不安… 玉子巻 オムレツいいね! …シャッター 食べれん 痛い 血塗れ ぎっしり蠢く ... 続きをみる
古本バザール
大抵の場合、朝は果物を口にするだけですが、 その朝は、ハムを焼いて卵を焼いて、オクラも焼いて、食パンも焼いて そこら辺にあるものを手当たり次第、 紅茶と共に頂きました。 空腹だと誘惑に負けるからです。 週末は、年に一度の地域のお祭りでした。 お目当ては、市役所東側で開催される『古本バザール』です。... 続きをみる
鍵
静かに電車がホームに入ろうとしています。 『間もなく〜〜◯◯、◯◯駅に到着いたします〜』 窓の外をボッーと眺めていましたが、そのとき突然ハッ!と 気がつきました。 (何ということだ!鍵を持ってくるのを忘れた!) 一気に気持ちがドヨンと重たくなりました。 泣きそうになりながら、プシュ〜っと開いたドア... 続きをみる
蓮根の天ぷら
次々と揚げ上がる『牛蒡と人参のかき揚げ』を 吸い取り紙に置く間も惜しみ、揚げる端から口にしながら、 心の中で叫んでいました。 違う! 食べたいのは、蓮根の天ぷらだ! その日、急に蓮根の天ぷらが食べたくなって、野菜売り場を物色したのですが、 隅から隅まで探しても、蓮根が置いてありません。 以前も同じ... 続きをみる
ある秋の日
遠方から来客があったので、あちこち案内でもしようと、 恐る恐る光差す地上へ上がりました。 寂れた商店街の一角です。 シャッターの色合いがいい具合です。 春夏秋冬、シャッターが下りる店ばかり立ち並ぶ商店街の裏手に回ると、 数軒の廃屋が静かに佇んでいます。 床屋さんだったのでしょうか。 廃屋に... 続きをみる
かつ丼定食
オレは売れない漫画家である。 名前はまだない。 よって実入りも…悲しい。 いつか芽が出ると信じて精進する日々だ。 月にいちど、この店でこの定食を食らうことがオレの数少ない楽しみのひとつだ。 オレはひとり静かに孤独を背負いながら、ここのかつ丼定食を食らいたい。 その時間は誰にも邪魔されたくない。(孤... 続きをみる
梅雨時に思う ⑬
実家の合鍵は預かっています。 母がひとりで住んでいます。 息を止め、カラカラと音を立てる引き戸を開け、 全ての灯りが消え、シンと静まり返る室内に忍び込みました。 朝が早い母は、既に布団の中でした。 なるべく驚かさないよう、そっと肩に手をやり、 『お母さん…来た』 囁くように呟くと ハッとすぐ目を覚... 続きをみる
ビフォーアフター
近所の閉院したクリニック前の地面です。 何十年も前から、こんな感じです。 小さかった息子は、ここを通るたびに 『口!口!』 興味津々でした。 ある日思いついて、他にもこのような地面がないだろうか? 塩むすびと水、タオル持参で、そこら辺をちょっと探しに行って来ました。 撮影 あさこ メイク担当... 続きをみる