餅つき
暮れも押し迫ると、普段は何処にあるのか謎である 臼と杵が登場します。 これも普段は目にすることがない、大きな蒸籠で 餅米を蒸すモワモワした蒸気が漂うと、 師走に入ると徐々に始まる 慌ただしい非日常のクライマックスに 子ども心にもわくわくしたものでした。 目の前が見えないくらいの湯気を立て、こっくり... 続きをみる
鴉
ジリジリ後退りしました。 文字通り驚愕して、目を疑いました。 初めてソレを見たのは2ヶ月ほど前のことです。 静かな住宅街の一角にあるゴミ集積所にて宙吊りになったソレは、 ゆらゆらと風に揺れていました。 たまたま通りかかった一角でした。 向こうから一組のカップルが談笑しながらやってきます。 きっと驚... 続きをみる
宝くじ
あの日から、ふとした瞬間に脳内がわくわくします。 連番10枚購入しました。 何度裏切られても、 当選発表の日まで、完膚なきまでに打ち砕かれるその日まで、 当たることしか頭にありません。 みずほ銀行の応接室で『その日から読む本』を恭しく受け取る自分が 目に浮かぶようです。 本当に当選したい訳じゃな... 続きをみる
年賀状
裏返したそれは、真っ白でした。 よ〜く見ると、隅の方にミミズが這ったようなヨレヨレの字で 『自分で書いてください』 とありました。 とうの昔に失くしてしまいましたが、 中学2年、隣の席の男の子から届いた年賀状です。 年々、年賀状がメンドーになります。 夏までに返そうと意気込んでいましたが、 今年の... 続きをみる
パラレルワールド
『そういえば、先生が交通事故に遭って、2ヶ月くらいお休みしたことあったね〜 いっぺんに気が緩んだよね。』 それまで賑やかに思い出話を共有していた6人の和やかな顔が 一斉にスッと怪訝な色に変わりました。 ひとりが、 『先生が交通事故で休んだことなんてあった?』 そう口にすると、あとの5人も 『覚えて... 続きをみる
あんドーナツ
『次の◯◯駅では、特急列車通過待ちのため、2分ほど停車いたします。』 このアナウンスの電車に当たると、すごくがっかりしてしまいます。 ホームに到着し、バラバラと何人かが降りたあと、 開け放ったドア、 シンと静まり返った車内で 名も知らぬ人たちとボケッ〜と待つ時間は、 ほんの数分のことですが、 間抜... 続きをみる
棘
その人は、聞こえないと思ったのでしょう。 その人が下を向いて苛立たしげにボソッと呟いた言葉はハッキリ聞き取れました。 『セルフがあるのに!』 舌打ちまで聞こえてきそうで、一瞬凍りつきました。 久しぶりに利用したコンビニには、 有人レジの隣に、以前は無かった完全セルフレジが設置されていました。 もし... 続きをみる