この町内の片隅から

よく分からない

イワンのばか


『マンション内で、リフォームされるお宅が数軒あるんですよ。
さらに何軒かまとまると、かなりお安くなります。
来月までの期間限定なんですが、いま、ご一緒にされるお宅を募っているので、
訪問させてもらいました』


『実は、先日あるお宅の浴室工事に入ったんですが、
タイルを剥がしてびっくり、排水管がぼろぼろで腐っていたんですよ〜』


『え!いちどもリフォームされてないんですか!』




週末の夕方、突然現れたリフォーム専門店の名刺を持つ若い男性は、
玄関先で澱みなく流れるように説明をされました。


よそのお宅で始まるリフォーム工事の案内かと思って玄関を開けたのですが、
長々とした説明はなかなか終わりそうにないです。


3月も半ば近いのに、朝から冷たい風が吹き付ける寒い日でした。
薄闇迫る頃、北側の玄関先は、昼間よりもっと凍える寒さです。


震えながら聞いていましたが、
突然の話で、即答することができません。




① 期間限定、今だったら割安
② 排水管に不備がでて、水漏れなど近所に迷惑をかける虞あり
③ マンション内で、実際にリフォームされたお宅がある



それらの説明にグッと気持ちが傾きかけましたが、



① 不安を煽る言い方が引っ掛かる
② もし、水漏れしても保険に入っているのでは?
③ 浴室のリフォームという話だが、一旦中に入れたら
ここも、あそこもヤバいですよ!と
脅かされるかもしれない
④ 期間限定は焦らせる常套手段とも言える


咄嗟にそう考えると、
その場で返事が出来ませんでした。
(とりあえず、ウチで相談の上、近所の誰かに聞いてみよう)


ウチで相談、近所の方数人にお聞きした結果、今回は見送ることに
しましたが、あれこれ考えるだけで疲れました。


リフォーム専門店の方の話が『嘘』とは申しませんが、






この世の誰もが人を陥れる種類の『嘘』を吐かない
口から出る『ことば』は全部そのまま受け取ることができる
何も疑わなくていい世界


『お金』の概念、『所有』の概念のない世界だったら
騙し騙されることもないだろう
パスワードも家の鍵もいらない

それはどんなに気楽で便利な世界だろう?






疑うことは疲れます。
自分も汚れた気持ちになります。
今、疑わざるを得ないことが多いです。




世の中一見して、便利になったようで、実は自分たちを縛るものが増え、
溢れる情報に疑うことが増え、複雑怪奇、
逆に不便になっているのではないかしら?




考えても何ともならないことで、足りない頭がパンパンになりかけると、
1人静かに歩きに行きます。


頭を空っぽにしたくて


本当は、それも持たない方がいいと分かっていますが、
ときどきハッ!と突き刺さる光景を撮りたいが為に、
スマホを持って歩きに行きます。




居酒屋の外壁

その日を待つ桜並木



 子どもの頃読んだ時は(変な話?つまらん)
そう思いましたが、妙にザラザラといつまでも心に残る話でした。

読んでも読まなくても、どんなときもこの本は手許にありました。
この世界こそが
究極の幸せかも?
思い、読み返しています。


 トルストイ作『イワンのばか』