この町内の片隅から

よく分からない

ジュリアーナ


『ふふふっ』


天から声が降りてきた?
それとも幻覚なのか?
ダイジョブ?…自分




薄手のカーテンでシャッと仕切られただけの四角い箱、
靴を脱いで上がったここは大きなショッピングモールの片隅にある試着室です。


試着室に引っ掛かっているS字フックに、細い足をぶらぶらさせて座っているのは
見たこともない『小さい人』でした。


金色に輝く長い髪、ぴっちり張り付いた黒いTシャツ。
カラフルな水玉模様のミニスカートからすんなり伸びた二本の足。
背中にはきらきら繊細な2枚の羽根。
ぱちぱちと火花が散っているような長い棒を器用にくるくる回しながら
笑いかけてきます。



『だれ?』


『こんにちは!妖精のジュリアーナよ。
きょう、妖精の養成学校を卒業したの!嬉しくってここで待ってたのよ。
何か願いはある?これは魔法の杖なのよ。ふふふっ』



なぜ、試着室にいるのか?
妖精ってなに?何でそんなに小さいの?
聞きたいことは山ほどありましたが、



『望むことを叶えてくれるの?』


『2段の試験も卒業試験も国家試験も合格したのよ。
はやくこの力を試したいわ。なんでもおっしゃってよ』



2段の試験とは何のことか分かりませんが、
細かい事情はともかく、これは大変な幸運を掴んだかもしれない、



『じゃ、このワンピースの後ろのファスナーを上げてよ』


試しに頼んでみましたら、
魔法の杖を一振りして、
濃紺のワンピースのファスナーをシュッと上げてくれました。



『つまんなーい。もっと難しいことをお願いしてよ』



ええっ!もしかしてホンモノ?



『これサイズが小さいわ。ワンサイズ大きい色違いを持ってきてくれる?』



瞬きする間もなく目の前には、ワンサイズ大きな薄桃色のワンピースが。
気に入ったので、早速購入することにしました。



『支払いしてくれる?』


『もちろん!』



レジに持って行きましたら、


『お客さま!おめでとうございます。ちょうど10万人目のお客さまです。
商品はプレゼントさせて頂きます。こちらは記念品でございます』



無料になったばかりか、幾つか記念品の包みまで渡されました。


何という幸運を掴んだのだ!これから先は人生イージーモードだね。
ワハハハハ
嬉しさのあまり、身も心も羽のように軽く、
道路の真ん中で踊りだしそうになりました。



『じゃねー、さよなら』



あら?手を振って妖精が飛び去っていこうとします。



『え!待ってよ!まだ願いはあるのよ、いっぱいあるのよ。どこ行くの?』



あっ!しまった!というように顔色を変えた彼女はわたしの肩に止まりました。



『ごめん、うっかりしてたわ。最初に説明するの忘れてた。
ほら、イギリス民話でもあるでしょ。3つの願いってあるでしょ。
願いは3つまでなのよ。
知ってると思ってたわ。
わたしっていつもそう。肝心なこと忘れちゃうの。


だ・か・ら!


3年で終わる養成学校を卒業するのに10年もかかるのよね〜』




さよなら〜と手を振って飛んで行き、水玉模様は米粒ほどになりました。


(どんなに頼んでも写真を撮らせてくれませんでした。飛んで行く姿を
こっそり撮ったのですが、白い鳥が写るだけでした)




あの日以来、試着室を見つけたら、
とりあえずカーテンを開けて中を覗くことがクセになってしまいました。



最初に言ってくれてたら…
もう少しだけ、賢い妖精に出会っていたなら…


水玉模様恨めしや




※ すべて妄想です