この町内の片隅から

よく分からない

若葉のころ


若葉のころでした。
何通かのダイレクトメールと一緒に一通のハガキが届いたのは…


クルッとひっくり返すと真っ白いハガキいっぱいに大きく、


『ヒダリ』


誰が送ってきたか分かりません。


何のことだろう?
何処から届いたのだろう?


気になりましたが、日常に紛れ、妙なハガキのことは忘れてしまいました。


その年の暮れ、溜まった福引ポイントカードを手に
賑わうスーパーマーケットの片隅に置かれた
ガラガラ抽選器の前に立ったときのことです。


抽選器は2台あります。


(どっちを回そうかな?)


唐突に思いだしたのは、半年以上前に届いたハガキに書かれていた文字でした。


(そういえば、あのハガキには『ヒダリ』とあった。
ためしに左を回してみよう)


ガランガラン!
ハンドルを3、4回ぐるぐると回しました。
コロコロ〜ストン
頼りなげにポロッと落ちたのは黄色のボールです。


カランカランカラン!店中に響き渡る鈴の音。


『おめでとうございます!』


毎年暮れになると、ここで福引を引きますが、
一等を当てるなんて初めてのことです。
大抵は300円の商品券しか当たらないので、
実はそれしかないのだと思い込んでいました。



その次の年も若葉のころに妙なハガキが届いたのです。


『ニトウ』とありました。



また暮れになり、ガラガラ抽選器の前に立ちました。


(ことしは2等が当たるってことかな?)


ハンドルを3、4回ぐるぐると回しました。
コロコロ〜ストン


2等ではありません。特賞を告げる赤いボールがポロッと落ちました。


『おめでとうございます!』


特賞はタイ旅行です。


(ハガキには『ニトウ』とあったけど…)


それは昔から焦がれている国です。
旅行の日程、タイの写真、詳しい資料を目にしたらぐらぐらしてきました。
しかし、絶対に受け取ってはならない、
何故かそんな気がしてたまらず、後ろ髪を引かれる思いで辞退したのです。


勿体無いですが、2等の商品券に替えてもらいました。



年が明けてしばらくしたある日、朝のニュースで
速報が流れました。


(飛行機事故か…ふーん大変だなぁ)


ボッーと聞き流していましたが、あることに気づいて背筋が凍りついたのです。
事故を起こした飛行機は、もし特賞を受け取っていたら乗る筈だった便でした。




今年もまた若葉のころになりました。
先日、送り主の分からぬ茶封筒が届きました。


中を開けてみると、一枚の便箋と一枚のハガキ。
素っ気無い便箋には短くこう書かれています。


『このハガキを403号室のポストに入れてください。
それで終わりです』




…なるほど。
世の中はこうして循環しているのか…



※すべて妄想です


眠れなくてごろごろする夜、妙な話の切れ端がポッと浮かびました。
朝起きたら忘れかけていましたが、
慎重に記憶を手繰り寄せて、組み立ててみました
何処かで(前世を含む)聞き齧った話が頭に残っているのかもしれません