撮影 あさこ
メイク担当 ひるこ(仮名 あさこ妹)
制作費 不明(公共交通機関利用)
引き続き、今後も注視して街中の地面にひっそりと
生息する『口』を見つけたいと思います。
メイクについて
あれこれ試してみましたが、自分では何ともなりませんでした
正面切って言えませんので、ひるこ(仮名)に、
この場を借りて感謝します
撮影 あさこ
メイク担当 ひるこ(仮名 あさこ妹)
制作費 不明(公共交通機関利用)
引き続き、今後も注視して街中の地面にひっそりと
生息する『口』を見つけたいと思います。
メイクについて
あれこれ試してみましたが、自分では何ともなりませんでした
正面切って言えませんので、ひるこ(仮名)に、
この場を借りて感謝します
ある侍女の告白 - この町内の片隅から
ある侍女の告白 其の弐 彦星 - この町内の片隅から
薄い水色のカーテンに囲まれた狭い空間で目を覚ました
白い天井
消毒液と薬のにおい
チキショー!やはり現実だったのか!
その週末は、大事なオーディションを控えていた
何としても東京に出て、一旗あげたいオレは、あちこちのオーディションに
応募しているのだが、なかなか書類選考に通らない
今度こそ!と応募したある映画の新人オーディションで最終選考まで辿り着いたのだ
オーディションの10日前
風呂上がりに突然、口の周りがヒリヒリしてきた
みるみるうちに幾つもの水ぶくれ
『なんじゃ!こりゃあ』
顔が命のオレは焦った
とりあえず、オリーブオイルを塗りたくって寝た
次の朝、起きたらまぶたが重い
鏡を見て仰天した
まぶたがお岩さんのように腫れあがっているではないか!
重症のものもらいか?
学校なんか行ってる場合じゃない
急いで眼科に駆け込んだ
ものもらいでも目の病気でもなかった
眼科から脳神経内科、そして大学病院の脳神経内科、皮膚科、耳鼻科…
検査に次ぐ検査
人の血をどんだけ取るんじゃ!
長い長い途方もなく長い時間だった
待合室の長椅子に座っていても、不安と緊張で心臓が飛び出しそうだった
何度も自分が何処にいるのか分からなくなった
吐きそうだった
あちこちたらい回しにされた挙句、やっと病名がついた
テメーら、金使ってようけ勉強してきたんやろ!さっさと診断しやがれ!
さっさと治しやがれ!
どいつもこいつも役立たずのうすのろのイチゴヤロー!
元々身体に潜んでいた水痘ウィルスが原因らしい
どうしてそうなったのか分からぬが、
ウィルスが顔の神経にわるさをしていると言うことだ
顔半分の自由がきかない
認めたくないが、はっきり言ってしまえば、
顔半分が麻痺してる
重症らしい
おそるおそる鏡を覗いて呆然となった
医師は先の見通しについて言葉を濁した
どうしてオレがこんな目に遭わなきゃならないんだ!
ヤツか!
ヤツの仕業か!
空にいる天帝め!
涼しい顔しやがって!
善人ぶりやがって!
散々、織姫を裏切っていたオレのことをお見通しだったのか!
仕返しか!
ねちっこくて腹黒くて執念深いヤツだぜ!
てめぇの娘だって大したタマだぜ!
いつだって他人のオトコがほしくなる
一旦手に入れたらポイ!
そのくらい知っとけ!
入院して点滴治療を受けることになった
それで良くなるのか、オーディションに間に合うのか
分からない
どん底だ
もうダメだ
オレは有名になりたい
注目されたい
金がほしい
こんな田舎町で燻って一生を終えたくない
こんな田舎町、反吐がでるわ
くだらない家族も大嫌いだ
ほんの少しだけ夢の欠片を掴みかけた途端にコレだ
『ヤッホー!パジャマの替え持ってきたよ』
空の上では織姫だったが、
この世界では姉という立ち位置である、渡辺凛のノーテンキな声がした
『うるさい!黙れ!また笑いにきたんだろ!
いい気味だと思ってんだろ!おまえもヤツとおんなじだ!いい子ぶんな!』
悔しい
罵りたいが、口が上手く回らない
もどかしい
顔が痛い
ヒリヒリする
誰にも会いたくない
誰もがオレを嘲っているにちがいない
チキショー!
疲れた…オレは、再びうとうとしたようだ
『すみません…』
凛とは違う若い女の声がした
『なんだよ!』
怒りを含んだ声で答えると
『あの、祖父が隣のベッドに今日から入院します。よろしくお願いします』
カーテンの隙間から、何やら小さな包みが差し出された
『なんだ?これ?』
『うちで作っているお菓子です、3種類だけの菓子屋です。
今日は、アーモンドケーキが売り切れてしまい、2種類だけですが、
よかったら召し上がってください。おやすみのところ失礼しました』
カーテンの隙間からソッと覗いた
見慣れた制服だ
凛と同じ学校なのか…
4月、オレもこの高校に入学したばかりだ
包みを開けた
レモンケーキ
マドレーヌ
なんだ!こんなもん!誰が食うか!
怒りと悲しみでやりきれない
眠れないまま、その夜、乱暴に一つの包みをビリビリと破った
ゴミ箱に捨ててしまおうと思ったが、
ふんわり漂う甘酸っぱい香り
ささくれだった心を解きほぐす優しい香り
思わず一口齧った
…うまい!
甘いだけじゃない
何だ?この包み込むような温かさは?
しっかりと詰まった生地
小さめだが、どっしりした重量感
レモン風味の砂糖衣
オレはこの砂糖衣ってやつが好きなんだ
自由がきかない左目からポロポロ涙が溢れた
運命が反転したあの時から、食欲なんてもんは空の彼方に飛んでいったはずなのに
うまい!と思えた
うまい!と思えたことが生きている証のようで
何だか嬉しくてポロポロ泣きながら、こぼしながら残りを大切に食べた
ボロボロでも、まだ頑張れるかもしれない
天帝も織姫もくそくらえ
痛みもつらさもオレにしか分からん
安っぽい同情なんかいらん
何も信じない
誰も信じない
自分だけを信じるんだ
自分だけを頼るんだ
どん底で暗闇の中だけど、一筋の光を掴もうと、真っ直ぐな気持ちになった
織姫繋がりで、殆ど同時期にこの世界に下りてきたオレと池谷初音の
下界での出会いの切っ掛けは、レモンケーキとマドレーヌだった
たくさん必要な訳じゃないけど、ないと困るもの
地味だけど、ないと困るもの
放置しすぎると、手に取った時いきなりプツンと
頼りなくキレてしまうもの
キレたときの虚しい気持ち
その昔、一度だけ箱で買ったけど、
それ以来買ったことがないもの
買わなくても、なぜか絶対になくならないもの
その昔、買った箱が戸棚の奥にあった
おそるおそる中を見た
ガチガチに固まって開けづらい
ゴリゴリ開けた
ムリヤリ開けた
何本も残っているそれらは、ガチガチに固まって茶色いゼリー状になっていた
虚しさを通り越して吐き気がしたので捨てた
いつだってこのくらい掛かっている
なぜか絶対、zeroにはならない
何年経ってもzeroにはならない
これに関してだけは不自由しない星の下に生まれたに違いない
彼の名は『輪ゴム』