この町内の片隅から

よく分からない

わが決断に悔いあり


その夕方、最寄り駅の構内にて地元の飲食店の
出店イベントがありました。
ケーキ、和菓子、お酒、居酒屋風お惣菜…
ちょっとした立ち呑みテーブルの用意まであります。


おいしそうだけど、高そうだな…
賑わい始めた屋台を横目にサッサと通り過ぎようとしたところ、
いちばん端の屋台に食べ物でも飲み物でもなく
本だけがズラリと並べてあるのに気がつきました。


文庫本、ハードカバー、絵本などがぎっしり並べてあります。


パッと目を引いたのは
赤い表紙の文庫本
谷崎潤一郎『痴人の愛』でした。


懐かしさに思わず手に取り、パラパラとページを捲りました。


しばらく迷いましたが、
もしかしたらウチの本棚に収まっているかもしれない、
そう思い、購入に至りませんでした。



18か19で初めてこの本を読んだとき、


(実直に生きてきたのに、たった1人の女に人生狂わされて、
なんてバカなんだろう。気持ちわるい 
ベタベタと未練たらしく気持ちがわるい)


もう粗筋はおぼろげですが、
吐きそうなくらい嫌悪したことを覚えています。






駅からウチまでの道を歩きながらぼんやり思い返しました。


(でも、人生狂わされるほどの女に出会えた主人公は幸せだったんだ。
人生狂っても構わないほどの人に会えたのは幸せなんだ。
最期まで気づかず、狂わされたままだったらそれでいいのだ)




ときどき違和感を感じながらも、刷り込まれた形を幸せ?と思ってきました。
思わされてきたのかもしれません。


狂ったように見えても、道を踏み外しても(ある程度の条件付きで)
他人の目に気持ちわるく映っても
そういう幸せもあるかもしれない



やはり買えばよかったです。



『わが決断に悔いあり』

この2冊買ってしまいました。

イワンのばか


『マンション内で、リフォームされるお宅が数軒あるんですよ。
さらに何軒かまとまると、かなりお安くなります。
来月までの期間限定なんですが、いま、ご一緒にされるお宅を募っているので、
訪問させてもらいました』


『実は、先日あるお宅の浴室工事に入ったんですが、
タイルを剥がしてびっくり、排水管がぼろぼろで腐っていたんですよ〜』


『え!いちどもリフォームされてないんですか!』




週末の夕方、突然現れたリフォーム専門店の名刺を持つ若い男性は、
玄関先で澱みなく流れるように説明をされました。


よそのお宅で始まるリフォーム工事の案内かと思って玄関を開けたのですが、
長々とした説明はなかなか終わりそうにないです。


3月も半ば近いのに、朝から冷たい風が吹き付ける寒い日でした。
薄闇迫る頃、北側の玄関先は、昼間よりもっと凍える寒さです。


震えながら聞いていましたが、
突然の話で、即答することができません。




① 期間限定、今だったら割安
② 排水管に不備がでて、水漏れなど近所に迷惑をかける虞あり
③ マンション内で、実際にリフォームされたお宅がある



それらの説明にグッと気持ちが傾きかけましたが、



① 不安を煽る言い方が引っ掛かる
② もし、水漏れしても保険に入っているのでは?
③ 浴室のリフォームという話だが、一旦中に入れたら
ここも、あそこもヤバいですよ!と
脅かされるかもしれない
④ 期間限定は焦らせる常套手段とも言える


咄嗟にそう考えると、
その場で返事が出来ませんでした。
(とりあえず、ウチで相談の上、近所の誰かに聞いてみよう)


ウチで相談、近所の方数人にお聞きした結果、今回は見送ることに
しましたが、あれこれ考えるだけで疲れました。


リフォーム専門店の方の話が『嘘』とは申しませんが、






この世の誰もが人を陥れる種類の『嘘』を吐かない
口から出る『ことば』は全部そのまま受け取ることができる
何も疑わなくていい世界


『お金』の概念、『所有』の概念のない世界だったら
騙し騙されることもないだろう
パスワードも家の鍵もいらない

それはどんなに気楽で便利な世界だろう?






疑うことは疲れます。
自分も汚れた気持ちになります。
今、疑わざるを得ないことが多いです。




世の中一見して、便利になったようで、実は自分たちを縛るものが増え、
溢れる情報に疑うことが増え、複雑怪奇、
逆に不便になっているのではないかしら?




考えても何ともならないことで、足りない頭がパンパンになりかけると、
1人静かに歩きに行きます。


頭を空っぽにしたくて


本当は、それも持たない方がいいと分かっていますが、
ときどきハッ!と突き刺さる光景を撮りたいが為に、
スマホを持って歩きに行きます。




居酒屋の外壁

その日を待つ桜並木



 子どもの頃読んだ時は(変な話?つまらん)
そう思いましたが、妙にザラザラといつまでも心に残る話でした。

読んでも読まなくても、どんなときもこの本は手許にありました。
この世界こそが
究極の幸せかも?
思い、読み返しています。


 トルストイ作『イワンのばか』

配達完了

『配達完了:ご注文商品の配達が完了しました』


遅い時間に、Amazonから配達完了のメールが届きました。


(手渡しだと思って待っていたのに?
ポストに入る大きさだったのかな?)


翌朝、わくわくしながら一階の集合ポストを覗いたのですが、
(ウチは集合住宅のマンションです)
荷物らしきものは見当たりません。


届いてない?
どういうこと?
今までそんなことは、一度も無かったので、
アクシデントの場合、どうしたらいいかよく分かりません。
配達完了のメールには、返信ができません。



どうやって辿り着いたか定かではありませんが、
Amazonと電話でやり取りをする段には、
いらいら怒りマックスになっていました。


しかも、電話の向こうは辿々しい日本語。
いらいらに拍車がかかります。
不安がよぎります。
ダイジョブ?意味分かってんのかしら?


わたしにしては、かなり怒り狂って通話を終えたとき、
気づいたら花粉症の症状が消えてスッキリしていました。


まだ残る怒りを燻らせながら、玄関にしゃがみ込み
靴紐をキュッと結び終え、ふと顔を上げたとき、
玄関ドアの内側に付いているポストに目が留まりました。


ハッ!
もしや?
数ヶ月ぶりに探ってみましたら、
なんと商品はそこに届いていたのでした。




花粉症の症状がありますが、病院に行きたくない
出来るだけクスリも飲みたくない…
ホメオパシー(代替療法の一種)のレメディ(花粉対策)を
取り寄せたのですが、そんな訳で、まだ開封に至っておりません。


世の中、何が幸いするか分かりません。




(しかし、気持ちが落ち着いてきましたら、
また花粉の症状が徐々に表にでてきました。
幸いしたと思ったのは束の間の錯覚でした)


『幸い』はあっという間に飛んでいきました。