この町内の片隅から

よく分からない

林檎のケーキ

『やっぱり、貰っていくわ。包んでくれる?』


息子に食べさせたいと思って焼いた
林檎のケーキです。
手をつけずに帰ろうとしたので、
持って行って食べなさい、と
勧めましたが、荷物になるからか、気が進まなさそうでした。


まぁいいか、自分が食べれば…



そう思いましたが、
貰ってくれるのだったら嬉しいです。
作った甲斐があります。


弾んだ気持ちで、大ぶりに切った2切れをラップに包みました。



何かひとつでも持たせたい
何か少しでも食べさせたい



そんなことを思う度に、似た記憶が蘇ります。




実家を訪れると、帰り際にさまざまなものがテーブルに並びます。
果物、お菓子、佃煮、ジャム、野菜…
分かっていても、荷物になるのが億劫で、ほんの少し
手に取るだけでした。ありがたくて申し訳なくて嬉しいと思いながらも。



貰ってくれて嬉しい
貰わなくてごめん



いつまで渡すことができるのか、
いつまで貰うことができるのか…
分かりませんが、その場面の度に
嬉しいような困ったような複雑な心境になります。


とても幸せなことだと分かっていながら

花粉の日々


今年も、怖れていた日がやってきた。


ある朝起きたら、目が腫れ上がっていた
とてつもなくダルい 


何年か前の春先、突然症状が現れて以来、
それは毎年律儀にやってくる。



この頃は空気が乾燥するから、唇がカサカサに荒れて時には血が滲む
ダル過ぎて、リップひとつ塗ることすら面倒だ
(ムラがあるが、自前の口紅とも言える)


指先も手の爪も割れてあちこち不快に引っかかる。


この時期、生活の質がガクンと落ちる。




いつだったか近所の耳鼻科で診てもらったことがある
新しいクスリとやらを出してくれた。


期待に胸弾ませ、2日経ち3日経ち5日経ち…


再び病院を訪れた。



『先生、効かないみたいです』
『あらそうだった?じゃ、こっちのクスリに変えましょうか?』


残ったクスリを引き取ってくれるわけでもない
まだ残っているクスリはどうしたらいいのだ
次のクスリは今度こそ効くのだろうか?


2度3度同じことが繰り返されるうちに
花粉のシーズンが終わった
幾つもクスリを捨てた。


シーズンが終わったから治ったのか、
最後に処方されたクスリが効いたのか…
謎だ。


それからは、どんなにしんどくても病院に行ってない。




雪混じりの冷たい風が吹きつける日だった
近所のドラッグストアにふらふらと吸い込まれるように入った。


ズラリと並ぶアレルギーの飲み薬 目薬 点鼻薬
どれを選んでいいか分からない
以前、クスリを選ぶとき、ここの薬剤師さんに相談したことがある。


全然効かなかった



自分の勘で選ぶことにする
誰も信じられない
なにも信じられない


どれもそう変わらんだろう?


あーダルくて何をするのもメンドーだ
シーズンだからか?特売日だからか?
一台しかないレジは長蛇の列だ


ダルい
しんどい
痒い
眠い
イラつく
唇が痛い
ささくれて血が滲む指先がジンジンする
顔が腫れぼったい
目が腫れ上がっている気がする
恨めしい
長い列に並びたくない
今にも暴走しそうに気持ちがささくれ立っている



エコバッグの奥にある財布を取り出すのもメンドーだ
バッグの中の整理もできずぐちゃぐちゃだ
財布がでてこない
そもそも財布を持ってきただろうか。


お釣りを貰うのもメンドーだ
お釣りを仕舞うのもメンドーだ
一連のやり取りを考えただけでうんざりする


欲しいのは一箱のクスリ
この場で、バッグにサッと滑りこませても
分からないかも?



早く帰りたい
ダルい
痒い
眠い
立っていられない
横になりたい
イラつく




無意識のうちに青い箱に手が伸びた。




その時!


『こんにちは!久しぶり!』


ハッと顔を上げたら、近所の友だちだった


寸前で、我に返った。




そのつもりはなくても、
気づかぬうちに他人様を救っていることが
あるかもしれない、
救われていることがあるかもしれない


神の采配かもしれない、
しみじみ思いながら帰った。


28錠14日分のクスリは効くかどうか分からない




※ 事実を書こうとしましたが、途中から妄想混じりになってしまいました。
※ そういえば、桃の節句なので画像だけでも華やかなものを探しました。
 これしか無かったです
 先日、参拝した金運の神社です。

チラシ

3日ほど覗かなかっただけで、
どっさり溜まっていた。
季節の変わり目に送られてくるズシッと重い通販カタログの類、
ピザ屋、宅配寿司、塾のチラシ、スイミングスクール、
水道修理のシール、リフォームの案内、市の広報…
1階にある集合ポストの中を見ただけで
うんざりした。


中身を検めることもせず、資源ごみ直通が殆どだ。


郵送停止をお願いしようと思いながら、ついつい
後回しになってしまっている。



重量のある郵便物を抱え階段を上がって部屋に戻った。
あ!ドアを開けた拍子にずっしり重い郵便物の中から、
1枚のチラシがひらりと玄関の床に滑り落ちた。


毒々しい黒紫のカバー色は、あまり目にしたことがない。




血塗られたような大きな文字で、


『呪い引き受けます』とある



① 1週間コース
② 1ヶ月コース
③ 1年コース
④ 特別コース
⑤ その他 何でもあり


呪いの種類はお任せください
あなたの恨み晴らします


呪いの魔術師






何だ、このチラシは?怪訝に思いながらも、
記憶から消し去りたい、ある人の顔が頭に浮かんだ。
あの人は忘れているだろうが、何年経っても自分は
忘れることがない。あの人にされたこと、言われたこと、悔しかったこと


しかし、だからと言って
呪いをかけるなんて卑怯ではないだろうか?
でも、思いだすと未だにムカムカする


数日悩んだ。
どうしても決心がつかず、呪いの魔術師に
連絡することはできなかった。


迷っている間は頭の中に霞がかかったようで苦しかった。
自分の中の醜いものと対峙するからか、苦しかった。


すこし未練はあるが、
やっぱりやめよう!と決めたら
曇り空がサッと青空に変わったかのような清々しさを覚えた。


資源ごみの日を待たず、自分の中の汚いものと一緒に
禍々しいチラシを捨てた
これでよかったのだ。


久しぶりに気持ちのいい眠りにつけた




次の朝、起きると身体中が痛い
だるい 重い 吐き気がする 頭が痛い 腹が痛い 腰が痛い
肩が痛い 足が痛い 手首が痛い


起き上がることができない。


病院で調べても、原因不明と言われた。
対処のクスリが出されるだけだった。
苦しい日々が続く



苦しい中で1つの可能性に思い当たった。


呪いのチラシが配布されたのはウチだけでは無いはず
…ということは?




〜〜〜※〜〜〜※〜〜〜※〜〜〜※〜〜〜※〜〜〜※〜〜〜※〜〜〜※〜〜〜


苦しくても痛くてもポストに郵便物は溜まる
また数日ぶりに覗きに行った。


ずっしり重い郵便物の中から、するりと床に落ちた
1枚のチラシに大きく書かれている血文字は


『呪い返し引き受けます』


………





※  集合ポストを覗いたら、郵便物がたくさん溜まっていました。
 うんざり仕分けしながら、何となく頭に浮かんだ妄想と
 特に意味のない画像です。