この町内の片隅から

よく分からない

廃屋と洗濯機とねこ


廃屋の裏手に広がる空き地。
いつの頃からか、ここに洗濯機が放置されています。


寂しげに佇む洗濯機が気に掛かるので、ときどき遠回りをするのですが、
その日、通り過ぎようとしましたら


洗濯機の向こうに何かいる!



近所の飼い猫なのか?
住み着いているのか?



暫し見つめ合う1人と1匹
微かに緊張が走ります。


(よう来たな。弥生3月、今日という日を待っておったぞ)


猫の囁きがスルスルと頭に流れ込んできます。
畏怖の念を抱き、思わず跪きそうになりました。


(今日という日を分かっていらしたのですか)
それには答えず、


(面を上げよ)


そろそろと一歩前に足を踏み出します。
猫は身じろぎもせず、こちらを見下ろしています。


(そのお姿をお撮りして宜しいでしょうか)


(構わぬ)


洗濯機の向こうで置き物のようにジッとしている猫をパチリと一枚。
枯れ草に足を取られそうになりながら、
一歩二歩と近づき
もう一枚パチリ。



(あと少しだけ、そちらに参っても構わないでしょうか)


(構わぬ、近う寄れ)


それでも、遠慮しつつ緊張しつつ
そろりそろりと近づき
パチリ!



最後に思い切って大きく一歩踏み出して
パチリ!



(ありがとうございました)


礼を述べようとしましたが
最後の一枚を撮り終えた瞬間、
彼はヒラリと身を翻し、彼方へと去っていきました。