この町内の片隅から

よく分からない

パラレルワールド


『そういえば、先生が交通事故に遭って、2ヶ月くらいお休みしたことあったね〜
いっぺんに気が緩んだよね。』


それまで賑やかに思い出話を共有していた6人の和やかな顔が
一斉にスッと怪訝な色に変わりました。



ひとりが、


『先生が交通事故で休んだことなんてあった?』


そう口にすると、あとの5人も


『覚えていない』
『わたしも記憶にない』


戸惑ったのはわたしの方です。



久しぶりに小学校の同窓会が開催されました。
帰りに、数人でお茶を飲んだときのことです。






小学校5年生、ある寒い日、
その朝は教室に担任の先生が現れませんでした。


代わりに教壇に立つ教頭先生から


『担任の先生が事故に遭い、しばらくお休みされます。』


と、告げられたのです。


教え方は分かりやすく授業も面白いのですが、学校一厳しい先生でした。
忘れ物をすると容赦なく叩かれます。
あらゆる場面で、緊張を強いられました。


教頭先生の報告を聞いたクラスの皆んなは、



『やった!』


先生の身を案じるよりも、
緊張の糸が切れて自由になった開放感で踊りだしそうな雰囲気になりました。


代理の担任は、いつも穏やかであまり怒ることのない理科専門の先生に決まりました。


クラスを縛り付ける重い石が消えて、いきなり自由を与えられたわたしたちは
結局、その自由を上手く操ることが出来ませんでしたが…






あんな大事件を誰も覚えていないなんて?


白けた空気になるのもマズいと思い、
その場は話を収めましたが、腑に落ちないものが残ったのです。



小学生の頃から今に至るまでの道程で、同じように見えるけれど微妙に違う世界に
わたしだけフッと滑り落ちたのかも知れません。










ある時気がついたら、LINEでやり取りする相手の1人に、全く覚えのない人が
登録されていました。イニシャルだけの表示です。
気になっていましたが、特に困ることもないので放置していました。
先日、何気なく、その人とのやり取りを開きましたら、
誰だか分からないその人との親しげなやり取りが幾つも残されており、
覚えのない人、覚えのないやり取りに背筋がゾッとしました。


人のことをブロックなんてしたことはありませんが、
気味わるさのあまり、その場で思わずブロックしたのです。


これは勘違いだ、大丈夫だ、と自分に言い聞かせて
布団に入りました。


何時間経ったでしょう。
隣の部屋から


『ピョロリン!』


LINEの通知音で起こされました。
時計を見ると午前2時です。


そういえば先程見た
何処の誰だか分からないその人とのやり取りは毎日午前2時に終了していました。


脇の下を冷たい汗がツーっと伝いました。
暖かい毛布に包まりながらも、背筋が凍りつきました。



『…誰?』






この世は、自分の目に見える世界が全てではなく、似通った世界が
幾つか重なっているかも知れない、
常々、そんなことを思っているもんですから、
奇妙な現象を引き寄せたのかも知れないです。






因みに、同窓会の話は事実ですが、
不審なLINEのやり取りの話は、フィクションです。
同窓会のあと、妙なことが頭に浮かんだだけです。


そんなことばかり考えていると、
また何か寄ってくるかも知れません。