この町内の片隅から

よく分からない


静かに電車がホームに入ろうとしています。
『間もなく〜〜◯◯、◯◯駅に到着いたします〜』
窓の外をボッーと眺めていましたが、そのとき突然ハッ!と
気がつきました。


(何ということだ!鍵を持ってくるのを忘れた!)


一気に気持ちがドヨンと重たくなりました。
泣きそうになりながら、プシュ〜っと開いたドアから飛び降り、反対側の
ホームに走りました。


うちまで鍵を取りに戻るしかありません。





その日、転職活動がままならず元気が無さそうな息子Bを
少しでも励まそうと、彼のアパートにお菜各種を届けに行くところでした。
しかし、合鍵が無くては入ることができません。


まだ何の目的も果たしていないのに、ついさっき通ったばかりの道を引き返す足取りは、
悔やむ気持ちも手伝い、情けなく重いものでした。





鍵を持って、再び電車に乗りました。


出鼻をくじかれた思いで何となくションボリ座っていましたら、
次の駅の扉が開いて乗車してきた幾人かの中に見覚えのある顔が?


(違うかな?いやよく似てる…でも違ったら恥ずかしい…)


あれこれ躊躇っていましたら、斜め向かいに座ったその方も
わたしの方をジッと見ていらっしゃいます。


席を立って、つかつかとこちらにいらっしゃいました。



『◯◯さん?ご無沙汰。』


息子Bが小学校の最後の2年間お世話になった担任の先生でした。


わたしの手に負えなかった中学、高校の頃、手当たり次第いろんな方の助言を
求めたり、あらゆる相談所に話を聞きに行ったりしましたが、
思い余って、その先生に一度連絡を取ったことがあります。


誰に相談しても何ともならないかもしれない、
解決してくれるのは時間だけかもしれない、
薄々そう感じていましたが、
誰かに話すことで救われることもありました。


しかし、こんなところで再びお会いできるなんて。



目的の駅に到着する迄のほんの僅かな時間でしたが、
偶然お会いでき、少しでもお話しすることができて、
ションボリと冷え切ってしまった体温がポッと上がったようです。




禍福は糾える縄の如し(タイトルが鍵だけに!まさに!本日のキーワード)




世の中、何が幸いするか分かりません。
そうか!いまショボンとしている息子にも
そう話せばいいのだ!



鍵を忘れたことにも何か意味があったのかもしれないです。
(…ムリヤリこじ付けようとしましたが、
いつものことで、ただボンヤリしてただけ、とも言う。)








電車


陸橋下から見た枕木です。