この町内の片隅から

よく分からない

梅雨時に思う ⑬


実家の合鍵は預かっています。
母がひとりで住んでいます。


息を止め、カラカラと音を立てる引き戸を開け、
全ての灯りが消え、シンと静まり返る室内に忍び込みました。


朝が早い母は、既に布団の中でした。
なるべく驚かさないよう、そっと肩に手をやり、


『お母さん…来た』


囁くように呟くと
ハッとすぐ目を覚ましてくれました。



咄嗟に、状況が飲み込めないようでしたが、
それほど驚く様子もなく、のそのそ起きてくれました。


『何か知らんけど、お腹空いた』


それを聞いた母はすぐに
冷蔵庫から卵を2つ3つ取り出し、チャチャチャっと軽快にかき混ぜ、
熱したフライパンでふんわり卵焼きを焼いてくれました。


お皿に盛られた優しいふんわり黄色い卵焼き。
ホワホワと湯気を立てています。


箸を取ってかぶりつきました。


(おいしい!)
ここ数日、何を見ても周りの景色はどんよりした灰色でしたが、
ふんわり卵焼きを一口食べる毎、周りの景色に色が付いていくようでした。


いままで生きてきた中で1番おいしかったものは何か?と問われたら
間違いなく、あの夜の『卵焼き』と答えることでしょう。



寝入りばなを起こされ、慌てて拵えたためか、
ジャリジャリとした殻が舌に残りましたが、殻もおいしく頂きました。


何が原因かはっきり分からず、心身の不調で電池がキレてしまった
わたしは、その日から約2ヶ月、実家に置いてもらったのです。







※  心身(特に心の状態)の不調は、誰も証明してくれませんが、
 証明のしようがありませんが、交通事故で頭を強打したことと
 何らかの関係があるのではないか?後遺症と呼ばれる類ではないのか? 
 少し疑っています。
 持って生まれた気質も関係しているのかもしれません。
 
 何年か前に遭った交通事故の顛末記です。


 ここまで来たら、タイトルが変になろうと、気にせず、
 ポツポツとでも思うことを全部出し切ろう…
 と思います。
 
 書くところがある幸せ…
 ありがとうございます。