この町内の片隅から

よく分からない

梅雨時に思う ⑧


乱暴に椅子を蹴り上げる音にビクッとしました。
内容は聞き取れないものの、怒って抗議するような声が
聞こえました。


ここは、広いワンフロアを幾つかのブースに区切ってあります。
小さな騒ぎは、いちばん端っこのブースからです。






話は遡ります。



図書館で見つけた本の巻末にあった『全国交通事故相談窓口』
その一覧表を頼りに
不安を抱えながら、電車を乗り継いで最寄りの相談窓口に出かけたのは、
半月ほど前のことです。
持参した示談提案書をお見せすると、サッと一瞥し


『…話にならない!最低金額です。』


『この案件でしたら、ここよりも的確な相談に乗れる機関があります。』
(10分で話は終わりました。)



紹介して頂いたのは『交通事故紛争処理センター』という機関でした。
そちらに足を運んで3度目のことだったと思います。




全国に11箇所あると言う『交通事故紛争処理センター』
交通事故関係に詳しい専門家、弁護士さんが
被害者側、相手の保険屋さん、双方の言い分を別々に聞き、中立的な立場で
示談などの相談に乗って下さる機関です。
理由は割愛しますが、相談料も無料です。






わたしが待機しているブースに担当の弁護士さんが
紅潮した顔で、戻ってみえました。



『いや…相手の保険屋があんまりな言い草だったんで、つい頭に血が昇って…』



別のブースで相手の保険屋さんと話していらっしゃったのですが、
保険屋さんの言い分に、
つい大声を上げてしまわれたらしいのです。




大体は想像がつきました。


最初から保険屋さんの態度は一貫していました。
病院の検査の数値に異常はなくても、時々起こる頭痛や自分にしか
分からない不安な気持ち、どこも拠り所がないグラグラする頼りなさ。
大きくなったり小さくなったり、でも始終消えない不安。
そういうものは全部無視して
彼らは、この出来事を
いくつもある案件の1つとしか捉えていない、
とにかく一日も早く少しでも安く仕事を終わらせたい、
そういった態度が透けて見えていました。


そりゃ案件の一つ一つにいちいち心を寄せる訳にもいかないと思います。


でも、その態度はあんまりだと思っていました。
こっちは、痛みも悲しみも感じる人間です。
機械で次々と運ばれる商品ではありません。



後から知ったのですが、申請すれば請求できる項目が幾つもありました。
例えば、入院中の家事育児。家政婦さんをお願いしたら、かかった費用は
全て請求できたそうです。
遠方から見舞いに来る二親等内の親族の交通費も請求できたそうです。



それらを知っていたら、安心材料になったに違いありません。
入院中は、突然放り出された10歳の息子のことが始終頭にありました。
黙っていましたが、気掛かりでたまらなかったのです。


利益優先ではなく、こちらの気持ちを汲んだり、
思いやったりする気持ちが少しでもあるのだったら、
そういったことも包み隠さず教えてくれていたことと思います。






1日に何人も訪れるだろう相談者の中のただ1人のために、
見ず知らずの他人のために、心を寄せて怒ってくれた担当の弁護士さん。
そのことに驚くと共に、ジンとしてしばらく立ち上がれませんでした。






※ 何年か前に遭った交通事故の顛末記です。
 もうすこしだけ続くと思います。
 (タイトルがちょっと変になりつつありますが…)