この町内の片隅から

よく分からない

チョコドーナツ


『まだ下手なんだけど、これ焼いてみたんだ。よかったら使ってくれん?』
 


その昔、結婚祝いにと友だちが持ってきてくれたのは、5枚組の手作りの皿です。


長い間、食器棚の奥にしまってありましたが、ふと思いついて
とうふや豆蔵さんの期間限定チョコドーナツをのせてパチリ。





友だちとは、同じサークルでした。
いい加減でやる気のないわたしと違って、彼女は真っ直ぐで一生懸命でした。
いつも穏やかで気持ちが安定していました。
その手は手のモデルができるくらい、うっとりするほど綺麗でした。
(手だけじゃなかったけど)




穏やかで優しい人だから早く逝ってしまったのでしょうか。
30になるかならないかで
小さな子ふたり残して逝ってしまいました。



葬儀には参列できなかったのですが
夢を見ました。


大きな高い門扉の前にあるベンチにふたり並んで座っています。
遥か下に雲が見えます。



『…子どもの事だけが気がかりでたまらんの。』



ポツンと呟く友だちに、わたしは何も言えませんでした。
黙って俯くだけでした。







何年か経ってから
墓地の場所を確認したいという口実で、旦那さんに電話をしたことがあります。
それとなく、子どもさんたちの様子を聞きました。



『元気ですよ。上の子は成人しました。不便な場所だから、よかったら墓地まで
案内しますよ。』


日々の生活に紛れて、忘れてしまう日の方が多いですが、
どこかでわたしにも気がかりな事でした。


(あぁよかった。
顔も見た事ないけど、元気に育って本当によかった。)




気がかりが無くなってからです。
たまにですが、この皿を使えるようになったのは…





このお祝いをもらって、だいぶ経ってから言われました。


『ごめん、結婚祝いに割れ物のお祝いなんてダメなんだね。知らなかったよ。』


『いいんだよ、そんなこと。割れ物だろうが何だろうが、壊れる時は壊れるし、
保つ時は保つわ。』




決してお皿のせいじゃないですが、半分壊れかけかも?です…笑
まぁ何とかなるでしょう。知らんけど



豆蔵さんのドーナツはチョコなしの方がいいかな、と思いました。