この町内の片隅から

よく分からない

ある秋の日


遠方から来客があったので、あちこち案内でもしようと、
恐る恐る光差す地上へ上がりました。




寂れた商店街の一角です。
シャッターの色合いがいい具合です。



春夏秋冬、シャッターが下りる店ばかり立ち並ぶ商店街の裏手に回ると、
数軒の廃屋が静かに佇んでいます。


床屋さんだったのでしょうか。


 

 


廃屋に置き去りにされた学習机です。
机の上には
『学研の図鑑』がポツンと残されていました。
教科書やら図鑑やらまとめる暇もない程
追い詰められた一家は、
身の回りのものだけを掻き集め、
ほうほうの体で、冷たい雨が降り出した夜半過ぎ、この家を後にした
のでしょうか。


『お母さま、わたしのあの図鑑どうしたでしょうね…』



まだあどけなさの残る小学生の長女に、そう問われた
お母さまの潰れるような胸のうちを想像したら
わたしまで胸が潰れそうになりました。





商店街を抜けてしばらく歩くと、素晴らしく個性的な看板を掲げる喫茶店が
あります。
あまりにも昔からある喫茶店なので、風景の一部と化してしまい、
ここに入ることなど思いもしませんでしたが、
遠方からの客が


『入りたい』


と言うもんですから、
扉を開けて入ろうとしました。



『営業中』の札が立てられているにも関わらず、扉は固く閉まっています。
押しても引いても叩いても喚いても閉ざされたままでした。