チーズケーキ
うろうろしているうちに、自分が何処から来たか分からなくなりました。
焦って闇雲に進んでみても、地下鉄の駅に辿り着けません。
寂れかけた商店街の中程に、こぢんまりとしたパン屋さんを見つけたので
道を尋ねようと中に入りました。
4、5人も入ればぎゅうぎゅう詰めになりそうな小さな店です。
白い帽子を被った店主のおじさんは、奥からごそごそと
持ってきた町内会の地図を大きく広げ、
親切丁寧に駅までの近道を案内して下さいました。

ホッとしてパンをふたつばかり買おうと店内を見回しました。
トレイに無造作に並ぶパンは昔ながらの素朴なものが多く見られます。
値札の貼り方と手書きの文字に温かみを感じました。


惣菜パンと甘いパンをひとつずつ求めました。
ふと、冷蔵ケースに目をやると白いチーズケーキがひとつ残っていました。
(あぁこれは、昔よく作ったケーキと似た味かもしれない)
無性に食べたくてたまらなくなることがありますが、
自分のために作る気が起こらないチーズケーキ。
きっとあの味だ
長いこと食べたいと思っていたあの味だ、
そんな気がしたので、それも一緒に求めました。
近所にもパン屋さんは何軒かあります。
最近のパン屋さんはどこも洗練されてきれいです。
なかなか覚えられなくて舌を噛みそうな店名と
同じく舌を噛みそうな洒落たパンが幾種類もズラリと並べてあります。
ひとつひとつが、よく買う食パン(PASCO超熟)1斤の倍以上のお値段なので
滅多に買うことができません。
馴染みのない町の小さなパン屋さんはお値段もホッとするものでした。
よい意味でのいい加減さと、ゆったり流れる時間と、ぽっかり浮かぶ『温もり』
そんな空気だったなぁと思い返しながら帰りました。
それほど遠方ではありませんが、もう訪れることは無いかもしれません。
どんなに望んでも、叶わないことが多くなってきました。
それもまた淡々と諦めるしかないです。
また行ってみたい、ひっそりそう思うだけです。
出来るだけ長く営業してほしいです。

路地裏を彷徨いていたら、道に迷いました。


一口一口、大事にいただいたチーズケーキは思った通りの味でした。
ずっと食べたかった味でした
ほんの少しだけ酸味が効きすぎていました。