この町内の片隅から

よく分からない

リフォーム工事

『はい!こちら、お悩み電話相談室です。』


『もしもし……あの…』


『はい、どうされましたか。ゆっくりでいいですよ。』


『ありがとうございます。あの…どんなことでもいいですか?』


『はい、もちろんです。こちらで対応いたしかねます場合は、
他の窓口へご案内もできます。』






その時っ!上の階から
ガガガガガガガッ!!!
ものすごい音が響いてきました。






『もしもしっ!大丈夫ですかっ!大きな音が聞こえましたが?』


『すみません。そうなんです。ウチはマンションなんですが、先週から
すぐ上の階のリフォーム工事が始まって…』


『そうなんですね。こちらにも響いてきましたので驚きました。』


『何だか大掛かりなリフォームらしく、来月の中旬まで工事らし…』






ガガガガガガガガ!!!
そして地の底から湧いてくるような不気味な
ウィーンウィーン!
ウィーン!
トントントン!





『あ!すみません!聞こえますか?』


『大丈夫です。それにしても期間が長いんですね。毎日こんな感じなんですか?』


『そうですね。平日は17時迄、土日祝日はお休みの筈なんですが、
どうかすると工事してますね。』


『終わるまで落ち着かないですね。』


『上の階の方が、ここを売り払って引っ越されたんです。あとを任された
不動産屋が手直しし……』






ガガガガッ!!ウィーン!ウィーン!
どんどんどんどん!
トントントントン!!!






『今日は特にひどいです。ウチの下の階の方は少々参っていらっしゃいます。
先日、相談されました。わたしに相談されても、何ともなりませんよね〜
まぁ、ウチよりマシだよ、と答えたら頷いてみえました。』


『大変ですね。早く終わるといいですね。』


『工事が始まる前って、近所に挨拶に回るじゃないですか?
リフォーム会社だか、不動産屋だか知らないけど、挨拶にいらしたんですよ。
留守していましたので、工事の案内とタオルがポストに入っていました。』


『はぁ、タオルの一本くらい持ってきますよね。ふつう』


『聞いてくださいよ!そのタオルなんですが、ハンドタオルってありますよね。
ハンカチくらいの大きさの』


『ありますね。』


『その半分の大きさなんですよ!初めて見ました。これ!』


『役に立ちそうに無いですね。』


『そうなんです。最初っからタンスの肥やしです。
分かってくださって嬉しいです。』









ガガガガっ!!
ウィーン!ウィーン!
BANBANBAN!






『…で?お悩みとは?』


『え?あ!あれ?すみません。ど忘れしました。あんまりうるさくて。』


『そうなんですね。うるさいのも役に立ちますね。
お気持ちがそちらに向いてよかったです。』


『そう言われればそうですね!
世の中、何が役に立つか分からないもんですね。』


『半分のタオルもきっと役に立つ日が来ますよ。
乾きも早いですよ。嵩張らないし。』


『そうか!そうですね。有り難く思えてきました。半分のタオル…
いろいろあり…』






ガガガガ!
ウィーン!ウィーン!
BANBANBAN!
ドンドンドンドン丼丼丼丼!
上からはヤケクソのような音が響いてきました。


工事、遅れているのでしょうか?








※  何処かの相談室に実際に電話したわけではありません。
 リフォーム工事の話以外、ただのフィクションです。


 大抵の場合、その悩みの答えはいつも自分の中にあります。