或る生徒
カンカンカンカン!
遠くから踏み切りの警報音が聞こえます。
いつ聞いても血が騒ぎ、わくわく高揚する音です。
どっちかな?上りかな下りかな?
陸橋下で今か今か、と待ち構えていました。
不意に人の気配を感じ、ハッと見回しましたら、
遅刻でもしたのか、こんな時間に制服姿の男の子です。
陸橋の向こうにある工業高校に通う生徒さんでしょう。
怪訝な目でわたしの方を見ています。
或る生徒 : こんなトコでなにしてんの?
わたし : じろじろ見んでよ。恥ずかしいからサッサと学校いきゃあー。
或る生徒 : どうせ今日は体育祭だから、遅れてもいいんだ。
わたし : いやいや 体育祭だろうと遅れちゃダメでしょ。
或る生徒 : だって走るの遅いんだもん、なのにリレーに出場させられる、最悪。
わたし : どーして?そんな目に?
或る生徒 : じゃんけんで負けた。嵌められた。
わたし : ……そうか…行きたくないね。
或る生徒 : 行かなくていい?
わたし : ガマンは身体によくない。行かなくていい。
彼は、不思議そうに振り返り振り返り、陸橋を潜って学校に向かったのでした。
そんなに気重になるのだったら行かなくていい、
そんな時間は勿体無い。
そのように一生懸命テレパシーを送りましたが、
彼の受け取る力が弱すぎました。
まだまだ修行が足らないのでしょう。
この陸橋下は滅多に人が通らないので、ドギマギしてしまいました。
息子たちが小さい頃、自転車の後ろに乗せて、よくこの下に来ました。
轟音を響かせ迫り来る、すぐ真上を走る電車に圧倒されます。
秘密の場所でした。
…(いや…秘密にしなくても、別に誰も来やしません。)
リレー、無事に済んだでしょうか。
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