この町内の片隅から

よく分からない

キョーガク

そろそろ布団に入ろうと思っていたところに届いた
一通のLINE。


『腹立ちすぎて退職届叩きつけたけど受理されんかったわ。』
息子Aでした。


この子は時折、心臓をギュッと掴むようなことを仕出かしてくれます。




あれは、高校に入学して間もない頃でした。
バスも通っているのですが、時間に融通がきく自転車で
小高い山の上にある学校まで、坂道を上り下りしていました。


『ただいま』


ある日、いつもより遅い時間に帰宅した彼の姿を見て
驚愕しました。
シャツは裂け、あちこち傷だらけ。血だらけ。
スピードを出し過ぎ、勢い余って自転車ごと倒れ、
帰りの坂道でコロコロ転がっていったそうです。


かすり傷だけで安堵しましたが、
よく無事に帰ってきた、と身が縮む思いでした。



肩の部分が裂けたシャツを見て、


『仕方ないね。新しいの買おうか?』


そう申しましたら、


『いや、このままでいい。このままがいい。』


わたしが繕ったところで、大差無いと思ったのでしょう。
自らの手で、雑に繕っていました。


『これ目立つでしょ?
どうしたの?それ?って聞かれるから会話の切っ掛けになるんだ。
自分のこと印象づけられるで〜』


なるほど。別に仕事に着て行く訳じゃないもんな。
なかなか賢いな。
クラスに肩が裂けたシャツを着てる子が居たら、
わたしだったらキューンってときめいちゃうかもな。
そう思いました。


数日経って、洗濯物の中に雑な繕い方をされたシャツを見つけた
ダンナが


『何だ!これは!新しいシャツも買えんと思われるじゃないか!』


激怒して、シャツをゴミ箱に捨てるまで着続けていました。


(そうなのか、世間一般では恥ずかしいのか…)


思いがけぬ激怒にシュンとしたわたしと違い、
引き裂かれてゴミ箱に捨てられたシャツですら面白がって?
写真を撮っていた彼です。
(もしかして微妙に傷ついていたかも知れません。
インスタとやらに上げたのかも知れません。)



どうか潰れないで、何事ものほほんと遣り過していってほしいです。




『大丈夫?
つらいの?
とりあえず生きとりゃあ』


返信しました。


ちょっと心配です。




心配で、これしか喉を通りませんでした。


いえ、これが食べたかっただけです。
久しぶりのあんパンおいしかったです。こしあんでした。