タマミ
痛いっ!痛いっ!痛いっ!
チリチリチリチリ焼け焦げる
目の前が真っ赤に染まる
ウアアアァァ〜〜熱い〜熱いぃぃ
千切れる!千切れる!怖い!痛い!痛いっ!
ウオッ〜〜!苦しい!く…くるしい…
…わたしの…カオ…カオ
それなりに幸せな毎日だった
誰一人友だちがいなくても
信頼できるパートナーがいなくても
生涯、この邸の中から出られなくても
疎まれて、薄暗くほこり立つ屋根裏部屋をあてがわれても
キレイな服を着たことも見たこともなくても…
何も知らなかったから、幸せでいられた
何らかの事情で、施設に預けられていたという腹違いの妹、
葉子がこの邸に引き取られてから、わたしの生活と心の歯車が狂いだした
風に揺れるサラサラの髪
大輪の花が咲いたような笑顔
ひらりと翻るスカートからのぞくすんなりとした脚
シックな小花模様の壁紙
薄桃色の洋服ダンス
1段目は可愛らしいフリルの下着やら靴下がぎっちり詰まっている
2段目は色とりどり品のいい夏物のシャツ、ブラウス
3段目はいく種類もの帽子、スカーフ、装身具
クローゼットの中には、暖かそうなコート、スカート、上質のワンピース…
葉子が眠るふんわり柔らかいベッドの真上が、わたしの住む薄暗い屋根裏部屋
生まれつき奇形のわたしは、実の父に疎まれ、ひっそりと屋根裏で暮らしている
それでも母はわたしの味方だったし、それなりに幸せだった
葉子の出現によって初めて知った目眩く世界
美しく着心地のよさそうな服
友だちという、自分とは違うニンゲン
弾むような会話
学校というところ
家族で囲む温かい食卓
そして…タカヤ
わたしの心が醜く捻くれるのに時間はかからなかった
誰もいない寝室で、鏡に向かって化粧を施したこともある
白粉をペタペタ塗っても真っ赤な口紅をキュッと引いても、
鏡には化け物のようなカオが薄気味悪く映るだけだった
ポタリと落ちる涙
全部葉子のせいだ
葉子さえいなければ。
いいえ、それは違う。もう1人のわたしが違う!違う!と否定するのだが、
葉子を攻撃することでしか救われない自分
穴を開けた屋根裏の床から、すぐ下の部屋に眠る葉子の顔に
毒の虫を落としてやったこともある
葉子の服に何本も針を忍ばせたこともある
ますます自分が苦しくなるだけと分かっていても、
他にこの心を鎮める方法がない
生まれて初めて淡い恋心を抱いたタカヤと葉子の仲睦まじい姿を目にして、
カッと絶望したわたしは
今さっき、葉子の顔めがけて、硫酸の入ったガラス瓶を投げつけたのだ
手元が狂って井戸の釣瓶にぶち当たった瓶の中身は
わたしの顔に思い切り降りかかった
痛いっ!
熱い!
痛いっ!
こわいっ!
お母さま!!
わたしが何をしたというのだろう
何故ここまで報われない人生なんだろう
悲しい
寂しい
薄れゆく意識の中で、途切れ途切れに色んなことが頭に浮かぶ
硫酸がかかったのがわたしでよかった
キレイに生まれたかった
葉子ごめん
葉子…
葉子にかからなくてヨカッタ
ナカヨクシタカッタ

(画像はお借りしました)
先日、お亡くなりになった楳図かずおさんの漫画
『のろいの館』は、
生まれつき奇形の少女タマミの
短くも悲しい生涯のお話です。
ずっと昔、何度も読み返した一冊です
タマミは、何を考えていただろう?
最期に思ったことは、何だろう?
薄ぼんやりした記憶を頼りに
彼女の心の内に思いを巡らせました。