この町内の片隅から

よく分からない

切り抜き

教科書に載っていた写真の中原中也によく似た人でした。
高校1、2年同じクラスでした。


文芸部に所属する物静かな人でした。 
(こっそり読んでいましたが、毎回わけの分からない作品でした)


遠くからその姿を垣間見るだけでドキドキしました。
近づいたり、話しかけたりなんて思いもよらないことでした。


高校2年の冬、席替えが終わった直後、周りの友だちと喋っていると、いきなりツカツカとその人がわたしに近づき
低い声で一言
『ねぇ席替わってくれん?』


みるみる顔に血が昇るのを感じました。
真っ赤になっていたと思います。



返事のないわたしに呆れたのか、拒絶だと思ったのか、その人は黙って自分の席に戻って行きました。
周りの友だちにも恥ずかしかったですが、仕方ないです。





ただ一度ですが、至近距離でその声を聞くことができました。
その日のその場面は、切り抜いて頭の中に貼り付けてあります。
悲しいことや、イヤなことがあったとき、いく枚もある切り抜きの中のそれを取り出して眺めます。
卒業式のあと、バスを降りて去っていく姿を食い入るように眺めたのが最後でした。
もう二度と会うことはないけど、
誰も傷つくことなく、1人で思って1人で完結した幸せな想い出です。




今日は、その人の誕生日です。
元気でお幸せだといいなと思います。




まだ平和だった頃の想い出です。