この町内の片隅から

よく分からない

蓮の花


どこかで目にしたその光景が、
記憶の底に引っ掛かっていたのかもしれません。


ある朝、起きたら


『行け!今日だ!見に行くのだ』


抗うことのできない囁きで脳内がいっぱいになりました。


湿度はありますが、昨日までの雨は上がり、太陽がカッと照りつけています。


洗濯物は溜まっています
布団もジメッとしています
窓ガラスから差し込む日差しを浴びて、ホコリが舞っています
貴重な梅雨の晴れ間です。


瞬時、ためらいましたが、


(また晴れる日もあるだろう、洗濯は雨が続いても干しときゃそのうち乾くだろう、
布団は寝てしまったら分からん)


上下の取り合わせも考えず、手近な服をサッと掴み、
財布とケータイだけリュックに放り込んで、
玄関先で靴紐をキュッと結びました。
ぐずぐずしていたら気持ちが揺らぎそうです。


行き先は、ハスの咲く公園です。
街中にありながら、約24ヘクタール(名古屋ドーム約5個分)
の広さを誇る公園です。
園内にはさまざまなエリアがあります。


幼い頃から何度も訪れた公園ですが、
ここでハスの花を見た覚えはありません
いえ、ハスどころかどんな種類であっても
花というものを見た覚えがありません
せいぜい春祭りの桜くらいでしょうか。


目には映っていても『見る気』がないので右から左へツルツルと
記憶が滑り落ちるのでしょう。


なぜ今日に限って『ハス』が突然見たくなったのか分かりません
なぜ脳内に囁きが聞こえたのか分かりません。


この公園内に『ハスの池』があると聞いていました
しかし、その場所が分かりません。


多くの人で賑わう休日ですが、
誰かに聞くことも憚られ、園内の地図を頼りに探し歩きました。
早く見つけないと花の咲く時間が過ぎてしまいます。
焦りながら、道に迷いうろうろしました。


洗濯も布団干しも犠牲にして来たのに
見つけられなかったら、何のために来たんだろう…



公園の中程にある池まで辿り着きました
橋の下で写真を撮ってみえる方がいらっしゃいます
大きく開く葉っぱや可憐な花がちらちら見えます。



(あった!ここだ!)


橋の下の沼地が『ハスの池』でした
幼い頃から何度も通った場所でした
この池の光景は目にしていた筈なのに。


(この場所は、何度も歩いたことがある。なぜ気づかなかったんだろう?)


目には映っていても、それを『見よう』という意思がないと
映ったものは自分の目の前を素通りしてしまうのでしょう。


素通りしてきたものは他にもたくさんあるかもしれません。



木陰のベンチで聞く蝉の大合唱が心地よかったです。


洗濯も布団干しもできませんでしたが、
命の洗濯ができました。



おまけ画像